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12月6日(木)に火力原子力発電技術協会(以下火原協)主催のパネルディスカッションが開催されました。
テーマは、「再生可能エネルギー導入を支える火力発電技術の現状と今後」。
2030年における日本のエネルギー構成の中で火力発電はどのような役割を演じることになるのか?を考えるものです。
■パネラー
- 東京大学 生産技術研究所 特任教授 荻本和彦氏(電力系統の専門家)
- (一財)電力中央研究所 上席研究員 北内義弘氏(電力系統の専門家)
- 東京電力(株) 開発計画部 部長代理 石井英雄氏(太陽光発電の専門家)
- (株)東芝 火力情報制御技術部 参事 戸根洋一氏(火力制御の専門家)
- (一社)火力原子力発電技術協会 専務理事 船橋信之氏(前東京電力品川大井発電所長)
- コーディネータ:(株)MHIコントロールシステムズ 黒石卓司
■パネルディスカッション開催の背景
政府のエネルギー環境会議は、経済産業省、環境省など関係諸機関の検討をとりまとめ、2012年6月29日に「エネルギー・環境の選択肢」を発表し、このなかでは、2030年の電力エネルギー構成が示され、これについての国民的議論の結果を受けて、同会議は9月24日に・・・公表されました。
現状の比率は、原子力26%、自然エネルギー11%、火力60%、熱電供給3%に対し、3つのケースが計画されています。
- ケース1:原発0%、自然エネルギー35%、火力50%、熱電供給15%。
- ケース2:原発15%、自然エネルギー30%、火力40%、熱電供給15%
- ケース3:原発20~25%、自然エネルギー25~30%、火力35%、熱電供給15%
いずれのケースにおいても火力比率が減る方向に向かいます。日頃、皆さんは、電気はいつでも使いたい時に使い、いらない時は消す。そして、停電がないのが当たり前。
ここで電力の基本中の基本をおさらいします。
電気は貯められない。時々刻々、発電と需要のバランスを取る必要がある。
これをうまく制御することで、周波数を東日本では50Hz、西日本では60Hzに維持しています。発電所の事故などでこのバランスがずれると周波数が変動してしまいます。
ところが、原子力は基本的に一定運転。太陽光発電は太陽任せ、風力発電は風任せです。従って、この発電と需要のバランスを取るために最も活躍しているのが火力発電で、我々のような制御関係者が縁の下の力持ちとして支えているのです。
このように受給バランスをとるために重要な火力発電の比率が小さくなると、今まで以上に火力発電は負荷変化速度の向上や最低運転電力の低減などより柔軟な運用が求められます。
3.11以降、マスメディアでエネルギーについて論じられるようになったと思います。ただ、議論されているのは、原子力、再生可能エネルギー、火力などの構成比率であって、発電と需要のバランスについては全くと言っていいほど話題になっていません。
この点を危惧し、火原協で「再生可能エネルギー導入拡大時の火力機の対応研究会」を立ち上げました。そして、火原協の会誌、ホームページ、また、今回開催したようなシンポジウムを通じて、これからの火力発電の重要性をアッピールしてゆくつもりです。この研究会はH25年度も継続させますので、今後も同様のパネルディスカッションを計画してゆく予定です。
■パネラー各氏の要旨
荻本氏:今回示された選択肢においては、最悪のケースで、随時の需給をバランスさせる需給調整力を確保することが難しくなるであろう。
石井氏:太陽光発電を2020年時点で2,800万kWまで増やす計画であるが、系統制御上の対策を取らなければ、そう遠くない将来に問題が表面化するであろう。
北内氏:大きな発電機を持つ火力発電は系統電圧,周波数の安定化等に大きく貢献している。
戸根氏:火力発電設備として、起動時間の短縮、負荷変化率向上、最低負荷引き下げなどのアイデアはある。
船橋氏:火力の運用性を改善する場合には、火力発電設備の疲労対策も配慮する必要がある。
■パネルディスカッションのまとめ
- 火力機の技術を総動員する必要がある。
- 日本のエネルギー自給率は僅か4%。化石燃料を無駄にできない。これに応える高効率ガスタービンや高効率石炭火力(USC)が求められる。
- 石炭はCO2を多く排出する。これを低減させるための石炭ガス化複合発電(IGCC) やCO2回収貯留(CCS)が求められる。
- 発電と需要のバランスを保つために、火力発電はサラブレットのようなフットワーク(フレキシブルなプラント運用)が求められる。
是非、皆さんもこのような背景を理解し、エネルギーの将来に注目してゆくと面白いと思います。