エネルギー革命に貢献する高効率燃料電池
燃料電池
|
|
---|---|
顧客 | Gas- und Wärme-Institut Essen, e.V. (GWI) |
出力 | 210kW |
国・地域 | ドイツ (エッセン市) |
製品 | SOFC (Solid Oxide Fuel cell) |
スケジュール | 2022年中に運転開始 |
概要
工業都市から環境都市へ変貌したエッセン
-
-
ドイツ西部・ノルトライン=ヴェストファーレン州にあるエッセン市。かつてはルール炭田から産出される豊富な石炭を背景に、ルール工業地帯の中心地として鉄鋼業などで繁栄し、1960年代には約75万人の人口を擁していました。その後、産業構造の変化もあり、人口は約58万人(2020年)にまで減少しましたが、今もドイツで10番目の大都市です。現在は炭鉱業関連の構造物などがユネスコ世界遺産に登録され、観光業が盛んであるとともに、面積の約9.2%が公園などの緑化エリアとなり、2017年には欧州委員会からEuropean Green Capitalに認定されるなど、工業都市が緑の多い美しい町に生まれ変わったことでも知られています。
2020年、三菱重工はそのエッセン市に拠点を置くガス・熱研究所(GWI: Gas-und Wärme-Institut Essen, e.V.)より、欧州初となるSOFC(Solid Oxide Fuel Cell: 固体酸化物形燃料電池)「MEGAMIE」を受注しました。工事は2021年6月に始まり、7月には礎石を敷設。2022年中の運転開始を予定しています。
脱化石燃料を目指す国家プロジェクト「エネルギーヴェンデ」
-
ドイツではエネルギー源を化石燃料や原子力から再生可能エネルギーに転換する「エネルギーヴェンデ(Energiewende)」と呼ばれる政策が推進されています。2050年までに再生可能エネルギーの発電比率を80%にまで高めることも目標に定められています。事実、以前は石炭燃料に頼っていた発電比率が着実に変化し、2020年には再生可能エネルギーが約45%を占めるまでになり、石炭の24%を大きく上回りました(注1)。
さらに、地域の暮らしや産業を支える地域電源や熱源も求められています。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは天候による影響を受けやすく、需要に応じて発電量をコントロールすることができません。夜間も風のない日も安定して電力を創り出す再生可能エネルギー源が求められており、活躍が期待されているのが、今回三菱重工が受注した燃料電池による発電です。- 1ドイツ連邦統計局(DESTATIS)“Gross electricity production1 in Germany from 2019 to 2021” (https://www.destatis.de/EN/Themes/Economic-Sectors-Enterprises/Energy/Production/Tables/gross-electricity-production.html)
-
水素にも対応するハイブリットな高効率発電システム
-
-
燃料電池とは水素と空気中の酸素を反応させて直接電気を創る発電システムです。水の電気分解は水に電気を通すことで水素と酸素に分解しますが、燃料電池の仕組みはその逆。水素と酸素を電気化学反応させることで、電気を生み出します。
三菱重工は約40年前から燃料電池の開発に取り組み、2017年より日本国内で商用SOFCシステムの市場投入を開始。2021年現在、日本で9機の実績を積み上げていることも、GWIに採用される理由になりました。さらに「MEGAMIE」は燃料電池にマイクロガスタービンを併せ持っており、天然ガスからバイオガス、水素まで様々な燃料に柔軟に対応できることが大きな特徴です。「MEGAMIE」の定格出力は 210kW。発電効率は53%-LHV、熱供給を含んだ総合効率は73%-LHVに達します。
2022年の稼働後、GWIでは水素、天然ガス、バイオガスなどの燃料に柔軟に対応できるハイブリッド型SOFCの運用性や、燃料ガスとしての水素の混合利用などについて、実機を使った研究を進めていく予定で、今回のプロジェクトのためにノルトライン=ヴェストファーレン州及び欧州地域開発基金(ERDF:European RegionalDevelopment Fund)による資金提供を受けています。
導入成果
「MEGAMIE」プロジェクトが地域エネルギーのマイルストーンに!
-
かつて石炭産業で栄えたエッセン市は、現在もドイツ国内の多くのエネルギー企業が本社を置く、欧州のエネルギー産業の中心都市です。GWIは公的な研究機関として革新的な燃料電池システム実現のための基礎づくりをしており、「MEGAMIE」プロジェクトはGWIにとっても、エッセン市にとっても、重要なマイルストーンと位置づけられています。2022年の運用開始後は、大規模オフィスビル、病院、住宅約300戸のいずれかに電力と熱を供給できる程度の能力を持つ予定です。既存の電力網から独立した分散型電源として、地域のエネルギー政策に柔軟に対応することができます。
-
ソリューション
欧州初のSOFCシステムを日本で製造し輸送
-
-
本プロジェクトの主契約者は、ドイツのデュイスブルク市に拠点を構える欧州法人の三菱パワーヨーロッパ(Mitsubishi Power Europe GmbH)です。同社は設計・調達・据付までの一連の工程を請け負うEPC契約をGWIと締結。SOFCの主要機器は日本の長崎造船所で製造しドイツに輸送されます。一部機器はドイツや欧州域内から供給する予定です。
顧客・当社関係者の声
SOFCが地域のエネルギー・トランジションに貢献
-
GWI Scientific Director
Klaus Görner
「再生可能エネルギーの割合が高いエネルギーシステムでは、日照や風況により発電量が左右されるため、環境に配慮した方法で、確実かつ迅速に電気と熱を供給できる発電所が不可欠です。このハイブリッドプラントにより、GWIは電気・熱分野でのガスベースのエネルギー供給において主導的な役割を果たし、熱電併給とセクター・カップリング(電力部門と熱部門、産業部門、交通部門などとの連携)の分野におけるエネルギー・トランジションに大きく貢献しています」
-
-
-
MHI's NEXT Energy Business Executive Vice President
Emmanouil Kakaras
「三菱重工のSOFCシステムを欧州市場に納入できることをうれしく思います。当社が得意とするクリーンエネルギーの需要が拡大していることが確認できましたし、当社はSOFC以外にも、エネルギー・トランジションに貢献可能な最新の技術・ソリューションを幅広く取り揃えています」