ケニアの持続可能な発展を支える地熱発電
地熱発電プラント
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顧客 | ケニア発電公社(KenGen) |
プラント | オルカリア地熱発電所 |
総出力 | 32.21万kW |
国・地域 | ケニア共和国(ナクル郡) |
主要製品 | 地熱発電プラント |
運転開始 | I - 1号機 / 1981年 2号機 / 1982年 3号機 / 1985年 II - 1・2号機 / 2003年 3号機 / 2010年 V - 1・2号機 / 2019年 |
概要
世界第8位の地熱発電国へ、環境保全と経済発展の両立に貢献
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東アフリカの赤道直下に位置し、東にインド洋を臨む国、ケニア共和国。国土の大部分は高原地帯のサバンナで、約58万m²の面積に5,000万人近い人々が暮らしています。人口はこの10年で同国の20%程度の約900万人増加し(注1)、実質GDP成長率も年率4〜6%台(注2)を維持するなど、アフリカ諸国の中でも経済成長が進んでいる国のひとつです。
以前よりケニア政府は「経済成長を促進するには国内の電化が欠かせない」と考え、2008年に長期開発戦略「Kenya Vision 2030」を策定。「2022年までに国内電化率100%を達成」という目標を掲げました。同国の電源構成比は、2017年時点で水力36%、火力31%、地熱29%で、今後持続可能な経済発展のためには、環境に優しく、信頼性の高いエネルギーの安定供給が求められています。- 1JETRO [2019.11] 「10年ぶりに国勢調査、人口増加率は鈍化するも10年間で約900万人増」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/11/7c8595e4aa47506c.html)
- 2IMF World Economic Outlook Databases [2019時点](https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2020/April)
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実はケニアの国土には、地熱エネルギーの宝庫ともいえる大地溝帯があります。この豊かな自然の恵みを活用しようと、ケニアでは1970年代から地熱発電の開発が始まりました。その中核ともいえる発電所が、首都ナイロビから北西約100kmの場所にある「オルカリアI〜V地熱発電所」です。当社は1981年に「オルカリアI」、2000年代に「オルカリアII」に蒸気タービンなどの発電機器を納入。40年にわたり、長く安定して高い稼働率を維持している実績を評価され、「オルカリアV」プロジェクトを受注しました。当発電所は2019年12月に引き渡しを完了し、運転を開始しています。
オルカリアVはケニアの地熱発電の中でも最大規模の単機出力8.62万kWを達成。稼働後、それまで世界第9位だったケニアの地熱発電能力はアイスランドを抜いて世界第8位になりました。 -
導入成果
ケニア最大規模の発電量を維持しつつ、自然環境とも共存
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2019年、オルカリアVが稼働し、ケニアの地熱発電設備容量は65.1万kWから81.6万kWへと拡大、経済成長を持続的・安定的に支える原動力となっています。ケニアが地熱発電に力を入れる理由には地理的要因以外に環境性・経済性などの側面があり、今では東アフリカにおける「地熱先進国」として周辺国に助言するほどです。
地熱発電は地中のマグマ溜まりにある熱エネルギーを取り出し、タービンや発電機などの機器を使って電気に変換します。そのため、天候に左右されることなく24時間電力を生み出し、しかもCO2排出量が少ないクリーンな発電方式であることが特徴です。石炭火力発電のライフサイクル二酸化炭素(LC-CO2)の平均値が943g-CO2/kWhであるのに対して、地熱発電はわずか13g-CO2/kWh(注3)に抑えることができます。同様にクリーンな発電方式といわれる水力発電は水量による季節の変動が大きく、干ばつに見舞われやすい乾燥地帯のケニアでは電力供給の安定性に不安があります。また、火力発電は安定して稼働できることがメリットですが、石油やガス資源が少ないケニアでは貴重な外貨を支払って燃料を輸⼊する必要があり、経済面が課題です。その点、地熱発電の燃料は地球内部のマグマのため、枯渇する心配がなく、自国の地下から取り出せるので輸入も不要です。
また、オルカリアVは野生動物が数多く生息するヘルズゲート国立公園内にあり、自然環境と共存する発電所でもあります。公園内をキリンやシマウマの群れが行き交うこともあるため、野生動物の生活の妨げにならないように建屋の塗装を雨季の草原色に近い深い緑色にするなど、野生動物の視覚にも細やかに配慮しています。
- 3電気中央研究所 [2016.7] 「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価」(https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDetail?reportNoUkCode=Y06)
ソリューション
現地企業を含めた3社コンソーシアムで中心的役割を果たす
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オルカリアVの納入先はケニア発電公社(KenGen:Kenya Electricity Generating Company PLC)です。同社はこのプロジェクトで地熱資源の探査や発電所の運転などを担当し、独立行政法人国際協力機構(JICA)より円借款(政府開発援助)を受けています。
納入に向けて、当社は三菱商事株式会社と現地の建設企業H Young & Company (East Africa) Ltd.と3社コンソーシアムを形成。地熱発電設備の設計を担当するとともに、蒸気タービン、発電機、復水器、および主要付属設備一式を供給。併せて、長年のEPC(設計・調達・建設)コントラクターとしての知見を活かし、技術者を派遣して据付・試運転の指導なども担当しました。また、現地リソースを最大限に活用して工事を行うことが地域振興や社会貢献につながるため、「オルカリアV」ではケニア最大の建設会社であるH Young社に土建工事や据付工事に参画していただきました。 -
当社担当者の声
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三菱重工業株式会社
エナジートランジション&パワー事業本部 SPMI事業部
長崎プラント技術部 地熱プロジェクトグループ 主席技師森田 優
当社はこれまで世界13か国に合計112ユニットの地熱発電設備を受注し、そのうち74ユニットはEPC契約で対応しています。地熱発電には地中から取り出した純度の低い腐食性の蒸気を使います。そのため、腐食性蒸気に対応したタービンの翼やロータの設計を行うことが設備の優位性につながります。当社は世界各地の異なる蒸気性状で検証を重ね、そのデータに基づいて材料を選定。強度設計を実施して、安全性と経済性を両立させてきました。数ある発電方式の中でも、とりわけ地熱発電設備の設計には長年の技術的な蓄積が必要です。オルカリア地熱発電所のように40年の長きにわたって運転できる設備品質は一朝一夕に創り上げられるものではありません。また、ケニアに限らず、東アフリカの地熱開発では発電所建設だけでなく、日本の優れた運転・メンテナンス技術も求められています。今後も、当社は先進的な環境技術と高効率の発電設備を提供することにより、アフリカの発展と地球温暖化防止に貢献していきます。