2020-02-10 固体酸化物形燃料電池(SOFC)とマイクロガスタービン(MGT)の複合発電システム

「MEGAMIE(メガミー)」を世界へ

2020-02-10
固体酸化物形燃料電池(SOFC)とマイクロガスタービン(MGT)の複合発電システム
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1. 安全で持続可能なエネルギー社会へ

東日本大震災の現場で書きなぐった、複合発電システム実用化へ想い。

2011年3月11日、三菱パワーの小林由則は宮城県仙台市内にある東北電力本店の会議室で、燃料電池システムに関する研究の報告会に出席していた。午後2時30分から会議が始まり15分ほど経った時、これまでに経験したことのない激しい揺れに襲われた。宮城県沖を震源地とし、甚大な被害をもたらした東日本大震災である。
情報から途絶され、避難民の一人となった小林は、復旧へ向けて奔走する東北電力のメンバーたちの姿を見ながら「インフラとしての電気の大切さ」を改めて強く感じた。そして、「日本はもとより世界中のまだ電気の届かない所に住む人びとに安全で環境にやさしい電気を一刻も早く届けたい」と、燃料電池の開発に対する強い使命感をあらためて心に刻んだのだった。

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余震が続く被災した夜、小林が薄明かりの中で書いたメモ。SOFCの性能向上のためのアイデアが記されている。
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クリーンで高効率な発電システム、燃料電池

地球温暖化が進み、世界中で気候変動による深刻な影響が報告されている。
低・脱炭素社会の実現は、現代に生きる私たちに最も求められているミッションである。これを実現する手段として期待されているのが、水素を利用して電気を生み出す燃料電池(FC)だ。
燃料電池は、これまでのエネルギーとは全く異なり、水素と空気中の酸素を反応させて直接電気を起こすという画期的な発電システムである。従来の化石燃料のように二酸化炭素を排出させず、エネルギー効率にも優れているため、環境問題やエネルギー問題を解決するものとして、世界中で開発が進められている。

三菱パワーでは、約40年前から燃料電池の開発を続けてきた。小林は、その開発におけるリーダーだ。
「MEGAMIE(メガミー)」は、2008年度から国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究として、まず250kW級システムの開発・実証を進めてきた。その後2015年に九州大学構内にプロトタイプ機を設置し、連続運転の実績(注1)を踏まえて、2017年に国内での商用機の市場投入を果たした。
(注1)2020年2月現在で25,000時間を超える運転実績。
安全で持続可能なエネルギー環境社会の構築に向けた活躍が大いに期待されている。

また、現在では電力需要の大きなユーザー向けに、三菱パワーの長崎工場でNEDOの委託事業による1MW級プロトタイプ機の実証を進めているが、「MEGAMIE」(1MW級)1基でまかなえる電力は、オフィスビル1棟分、住宅なら約300世帯分にあたる。
さらに、分散電源の特徴として、電力の使用先の近くに設置することで、送電ロスをなくし、コージェネレーションによる熱の有効利用も可能となる。

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「水の電気分解」は、水に外部から電気を通して水素と酸素に分解する。
燃料電池はその逆で、水素と酸素を電気化学反応させることによって電気を作る。
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250kW級MEGAMIE

2. 失敗の連続だった開発。 克服したのはチーム力

各分野の専門家の意見をインテグレートして、ワンチームで乗り越える

しかし、「MEGAMIE」の開発の過程は「失敗の連続」であったと小林は振り返る。
特に、克服するのに苦労したのは、繊細なセラミックスの化学製品でタフな発電設備を作るところだという。
「MEGAMIE」で使用するセルスタックは、三菱パワーが長年をかけ独自に開発したもので、構造的に堅牢な円筒型基体管の表面に、発電反応を行う素子を複数成膜したオールセラミックスの製品だ。2014年からはセラミックス専業メーカーである、日本特殊陶業株式会社(NTK)との技術提携を行い量産化の準備を進めている。

三菱パワーの加圧システムでは、繊細なセラミックス製品と強靭性が求められるガスタービンという、いわば相反する性質を持つコンポーネントを組み合わせ、複合的なシステムにインテグレートして行くというマネージメントの難しさを痛感した。

世界中で数多くの企業や研究機関が燃料電池の実用化に取り組んできた。しかし、ほとんどが成功せず挫折してきた。その原因の一つがこの技術のインテグレートではないかと小林は考えている。

「セルスタックは高性能のものが出来上がったのに、ちょっとしたシステム側のボタンの掛け違いの様なトラブルによって、相当に堅牢なはずのセルが割れてしまうといったことは、これまでに数多く経験しています」と振り返る小林。

「セルをつくる化学分野の人、それをシステムとして仕上げる機械分野、電気分野の人。そういう各分野の人たちの思いがうまく補い合い、助け合う連携プレーが大切なんです。例えば、化学屋さんはある意味で芸術的ともいえる質の高いものをつくろうとする。ところが、システムがなっていないから自分たちのセルがうまく機能しない、壊れると言う。一方機械屋さんは、うまくいかないのはセル自体の耐久性が足りないから、性能が足りないからだと言う。そういう葛藤をいかにワンチームでまとめ上げられるかが重要なポイントです。特に、効率性とスピードが重要視される現代社会においては、チームプレーを成功させるための“のりしろ”に当たる部分がどんどん短くなっていますが、この隙間をついて予期せぬトラブルが発生してしまいます。いろんな分野の人が思いを一つにできるよう、私も胃潰瘍になりながらまとめあげていきました」

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Developing next-generation solid oxide fuel cellsspecial_article08 -jp.jpgspecial_article09-jp.jpg

セラミックスとの格闘に、「陶芸家」のような心境に

東日本大震災を経験し、「とにかくSOFCを製品化しなければ」と強く意識するようになった小林だが、その頃は製造時点での歩留まりを上げることにも苦慮していた。
当時の心境を小林は、「どうしても歩留まりがあがらないと、陶芸家が納得のいくものができずに、作品を割るようなもの」だと敢えて自分を励ましたりもしたという。そこで行ったのが原材料まで遡った徹底的な現場の「整流化」である。
「もちろんみなさんは一生懸命やってくれていますが、原材料の品質にまで立ち入ろうとすると、原材料メーカーさんの工場にまで人を張り付けて管理しないといけない。これは本来パートナーさんが非常に嫌がることなんですが、皆さん協力してくれました。本当に感謝しかありません。」と振り返る。

もうひとつの課題が、BOP(バランス・オブ・プラント)についてだった。これは、最も重要なハイテクの燃料電池本体部分以外の補助的な役割を果たす周辺機器を指す言葉である。「MEGAMIE」でいえば、マイクロガスタービンや熱交換器、配管やバルブ類、そして電気品などが当たる。ハイテクのコアの部分の開発に、国や会社からの注目も集まるが、周辺機器も当然重要である。未だ世に出るかどうかわからない製品のために特別仕様のものを安く作る努力を、パートナーさんにしてもらえるかどうかが難しいところであった。
しかし、そこを一生懸命に働きかけて、BOP機器のコストダウンにも努め、よりSOFCの能力を発揮できるような仕様のものに改良してもらえたことも重要ポイントであったと小林は振り返る。

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3. 運用性とコストを改善し、世界中の人へ電力を

高効率かつ多種類の燃料ガスが使える、ユニークなシステムが誕生

では、三菱パワーの「MEGAMIE」は、他社のSOFCとどう違うのだろうか。一つは、加圧をしてガスタービンのような既存の発電システムと組み合わせているところだと小林は言う。
「加圧することでより大きな電力が得られます。また、円筒型のセルを使用することで、セルの中を流れる燃料と外側を流れる空気を遮断するシール部が両端の2カ所で済むため、ガスタービンとのコンバインがよりリーズナブルな形でできることもユニークな点です」
もうひとつは、多種の燃料ガスを利用できる点である。
すでにインフラが整っている都市ガスやLPGなどが使えるうえ、脱炭素に繋がる汚泥や食品残渣、農林業系の廃棄物などから出るメタンガスを燃料として使うこともできる。更にこれから迎える水素社会では、水素をどういった形態で輸送するかが課題となっているが、三菱パワーのSOFCではどのような形であってもフレキシブルに対応することができる。

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1MW級ハーフモジュール実証機

「MEGAMIE」のしくみ

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まず燃料ガスをSOFCに投入し、第1段の発電を行う。次に、加圧をした高温のSOFC排ガスをマイクロタービンに投入して第2段の発電を行う。高温のマイクロガスタービンから熱を取り出し、温水や蒸気を製造する。SOFCとマイクロガスタービンの両方で発電をするため高効率であるうえ、発生した熱から蒸気や温水を取り出して利用することができる。
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コスト面・運用面の課題を克服し、市場化を目指す

2019年には、250kW級の商用1号機として東京の丸の内ビルディングで運転を開始した「MEGAMIE」。
しかし、小林の語る「世界中の人に電力を届ける」という段階にはまだ至っていないという。
まずあげられるのがコストの問題だ。市場に浸透させるにはまだまだコストダウンが必要だ。そのためには、セルの出力密度をさらに上げることや、材料の最適化、製造プロセスの簡素化などが課題となる。また、BOPの標準化を徹底し、サプライチェーンを構築して、パートナーとともにコストダウンに取り組む必要がある。

もうひとつの課題は、運用性だ。自動車に使われている固体高分子形燃料電池(PEFC)は、作動温度が60℃から100℃と低いため起動・停止は簡単にできる。しかしSOFCは、900℃前後と作動温度が高いため、起動・停止に時間がかかってしまう。これをどう解決していくかが課題となっている。
確立した技術をどう量産化し、市場へ浸透させていくか。現在三菱パワーの複合発電システム「MEGAMIE」は、世界を変える一歩手前といえる。小林は、その答を見出すため今日も研究に没頭する日々を過ごしている。

※今回ご紹介した、加圧型ハイブリッドシステムは、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究として、当社長崎造船所で2008年度から開発を進めてきたものです。

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三菱パワー株式会社

顧問 技監・技師長
博士(工学) 小林 由則

三菱パワーにおける燃料電池開発のリーダー。
エネルギー変換工学、燃焼・ガス化、燃料電池・水素、再生可能エネルギー等を専門とする。