脱硫排水処理システム
石炭焚き火力発電所では種々の排水が排出されますが、その中でも、湿式排煙脱硫装置からの排水の汚濁は最も厳しく、かつ水量も多いという特徴があります。
同一成分でも複数の処理法がありますが、排水基準に従い、最適な処理工程を組み合わせて、技術的、経済的に優れた脱硫排水処理設備を提案します。
発電のために使用される石炭、石灰石および工業用水などには様々な成分が含まれており、それらの一部が脱硫装置で水に溶解し、排水として排出されます。
代表的な排水成分および処理方法を下表に示します。
また、特徴的な処理方法であるCOD処理、窒素処理、セレン処理を以下に紹介します。更に、ホウ素処理の技術も有しています。
排水成分 | 処理法 | |||||||
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中和 | 凝集沈殿 | 活性炭 吸着 |
酸分解 | 吸着樹脂 | 化学分解 | 生物処理 | ||
pH | ○ | |||||||
浮遊物資(SS) | ○ | △ | ||||||
フッ素(F) | ○ | ○ | ||||||
COD | 有機物 | △ | ○ | △ | ||||
ジチオン酸(注) | ○ | ○ | ||||||
N-S化合物(注) | △ | △ | ○ | |||||
重金属 | ○ キレート剤 |
|||||||
セレン | ○ 鉄塩、キレート剤 |
○ | ○ 6価還元 |
|||||
ホウ素 | ○ | ○ | ||||||
窒素 | NH4-N | ○ | ○ | |||||
NOx-N | ○ |
- 難処理性成分
多くの排水のCOD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)成分は有機物が主体のため、生物処理や活性炭処理を行うことが一般的です。
一方、脱硫排水は有機物以外に起因する難処理性COD成分が含まれており、処理対象成分により、以下に示す処理方法に基づき、システムの最適化を図ります。
有機物起因COD処理
由来
- 補給水(工業用水)中の有機物の濃縮
- 原料(石灰石)からの溶出
S2O6(ジチオン酸)起因COD処理
由来
吸収塔にてSO2の吸収により生成したHSO3-が、酸化される際に副次反応として生成
2HSO3- + 1/2O2 → S2O62- + H2O
樹脂吸着法
酸分解法
NS化合物起因COD処理
由来
吸収塔にてSO2の吸収により生成したHSO3-とNOxの吸収により生成したNO2-との反応生成物
火力発電所の排水には硝酸とアンモニアに代表される窒素成分が含まれています。
脱硫排水にはアンモニアが含まれており、固定床法と浮遊法による生物処理がありますが、負荷が大きく変動するケースが多くみられるので、高濃度と低濃度のいずれにも対応できるよう、排水条件に応じた微生物を維持することのできる素材を使った固定床方式を採用します。
排水の窒素成分濃度が著しく低下した場合でも本方式の場合は微生物の維持が容易なので、微生物の維持を目的とした窒素源の投入は不要となります。
固定床法と一般的な浮遊法生物処理の比較を下表に示します。
脱硫排水にはヒ素化合物と類似の毒性を示すセレン化合物が含まれる場合があります。
セレン化合物のうち、Se4+(+4価のセレン)は一般的な凝集沈殿処理で除去できますが、Se6+(+6価のセレン)は凝集沈殿ではほとんど除去できません。
Se(Ⅵ)の処理方法としては金属または微生物処理が代表的ですが、下図に示す微生物による還元法と脱窒処理の組み合わせにより経済性の高いシステムを提供します。
- 脱窒塔内では入口から出口にかけてNO3-濃度が低下する濃度勾配が形成され、出口水のNO3-Nは閾値以下となります。
- そのため、適切な有機炭素源を使用することにより、NO3-Nの阻害を受けることなくSe6+が還元されます。